色々なことを、気の向いたままに。
事象境界線
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月日/鏡
2008年 11月 22日 (土) 21:38 | 編集
砂浜は誰の足跡もなく、
それはちょっと前までいた冬の景色に似ていて、
朝の誰もいない気配。
足跡のない白く装飾された世界。
それだけで特別だった。
振り返れば、
そこに続く足跡が自分だけのものという事実が
輪をかけて世界の特別さを演出している。

だから迷わず駆けた。
波打ち際の揺らぐ模様が描かれている、
その境界線と、
太陽の光を受けて薄黄色の砂が
雪のように白く輝く、
その境界線を。

振り返れば足跡は自分のものだけ。
少し向こう側は、三人分になっている。

手を振った。
二つの影がゆらりと手を振る。
強烈な日差しで見えないけれど、
その顔は穏やかで、
嬉しい笑顔だ。
これまでも何度も見てきた。

少し南に下るだけで、
景色は激変した。
この時期にくすんだアスファルトと同じ色の空しか見たことのない私は、
その間に抜けるような青空があったことも忘れ、
ただただ、呆然と景色に見入っていた。

こんな青さは見たことがない。

白い雪は好きだ。
白くて冷たくて、
空から落ちてくる姿は、
例えようもなく綺麗で、
近づけばその不思議な造詣に
何かの意思が入り込んでいるのを感じ、
白だと思っていたものが、
透き通る透明だと知った瞬間。

体温であっけなく解けてしまった雪。


しかし、今いるこの場所もそれと同じくらい、
もしかしたらそれ以上に特別だ。
比べたらずっと暖かく、
景色は原色に溢れ、
見たことのない植物が、
大きな腕を広げている。
幹は黒ずんでおらず、
白っぽい色で、
緑の葉は、
今まで見てきたどの緑よりも鮮やかで、
赤い花は、
重々しくなく軽やかに咲いている。

三人で並んで歩いた。
日が暮れつつある静かな海。
黒くうねるようなものが、
海だと思っていた私は、
乳白色の色や、
淡い青の色味にすっかり魅了され、
そのことを、
どれだけ凄いかって事を、
体全体で表現して二人に話した。

二人は笑ってそれを聞いている。

唐突に二人は立ち止まり、
海の向こうをみて、
それから空を見上げた。

海の向こうでは太陽がこれまで見たどれよりも赤く、
情熱的に、
炭が真っ赤になっているのを思い出しながら、
静かに音も立てずに、
沈もうとしている。

空には、まだ青さが残っていて、
そこに白く、くっきりと、
太陽に負けない姿で月が出ていた。
透ける白い月は、
夜に見る明るい、少し金色がかったそれとは違う、
不思議な色合いで、それもまた素敵だな、
そう思った。


お父さんとお母さんは、
もう笑っていなくて、
ただ、その二つの景色を、
私の手を握ったまま静かに見ていた。
私もその景色と、
二人の顔を見上げていた。


お父さんが私を抱き上げる。
それにお母さんが寄り添う。
二人のいいにおいがする。
それに太陽とはちがった温かさ。

ゆっくりと靴を脱がされる。
中に砂が入り込んでいた。
お母さんがそれを丁寧に払い綺麗な砂浜に並べた。
首からぶら下げている小さなバッグをお父さんが見つけて、
ちょっとヒヤッとしたけれど、
中身に気づかれることはなかった。

ここには二人へのプレゼント。
夜になったら渡すんだ。

そのバッグもお母さんが首からはずし、
靴の横に置いた。

お父さんとお母さんの靴もその両脇に並んでいる。


ゆっくりと二人が夕日に向かって歩き出す。
小さな波の音が、規則でもあるかのように、
静かにささやく。

青かった海は今ではもう、
深い青から、赤へと変わり、
夜の色を帯びている。
月は高く頭上にあり、
一番星も出ていた。
太陽が沈む、
その瞬間はスローモーションのようでもあり、
瞬きをすればあっというまに終わってしまうようでもあり、
息をすることも忘れた。

「きれいでしょう?終わりと始まりの色はいつでもこんなに赤いのよ」
お母さんが言う。
「綺麗だろう?始まりと終わりの間にはあの月の世界があるんだ」
お父さんが言う。

抱きかかえられている脚につめたいものが触れた。
海の水。

そしてただ、音もなく過ぎていく世界に、
どこかの絵本で読んだ、
沈む世界を思い出した。
「冷たい」
そういうと二人は笑った。
私も笑った。

「怖い?」
首を横に振ると頭をなでてくれた。
そして挟み込むように抱きかかえられる。
「怖くないよ」
二人の心臓の音を聞きながらそう答えた。
「そうだな」

そしてゆっくりと、冷たさは、
足先から、
かかとへ、
くるぶしへ、
膝へ、
腿へ。

「怖い?」
首を縦に振った。
「大丈夫、ずっとこうしているから」
「お父さんと、お母さんと一緒は怖い?」
首を横に振った。

「目を閉じて、安心していい」
「目を閉じて、安心しなさい」
目を閉じた。
二人の心臓の音だけの世界。
何も見えない、けれど怖くはない。

心臓の音がだんだん速くなる。
体の温かさは、
もう海の冷たさでわからない。
それでもずっと温かい。
最後の髪の毛が、海に触れた。





だれもいない海岸で、
靴が並んでいる。
真ん中の靴には、
小さな黄色のバッグが添えてあり、
中には小さなプレゼントが入っていた。

砂浜には一人分の足跡が、波打つように残されている。
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