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夜、眠る猫
2008年 06月 04日 (水) 20:50 | 編集
少し遅めに体が覚めて、天気予報が外れていることを知る。

――雨じゃない

外に出ようと思ったのは20時を半分過ぎた頃。もう夜で暗かったが走りに行ってもいい、そう思った。

手早くウェアに着替えて水を一杯だけ一気に流し込み、シューズの紐を結ぶ。いつもとは違う向きで蝶々結びをしてドアの前に立つ。

――大丈夫。今なら誰もいない、気が付かれない。

慎重にドアを開け、音を立てないようにゆっくりと、倍の時間をかけてドアを閉める。
留め金がカチリと小さな音を立てた。

鍵はかけない。

その場で軽く足首を回し背伸びをする。ゴキンと背骨がなって、少しだけ驚いたが、そのままゆっくりと歩き出す。

階段を降りていく。
ロビーを横切り、外に出た私を迎えたのは曇天だった。

街灯が小さな陰を落としている。辺りは静まり風もない。少し先にお寺らしい古い建物がありそこには小さいながらも好ましい、立派な竹林がある。いつか斑に影を落とす陽の下でのんびり菓子など食べてみたらどんなに良いだろうと、お寺の塀に沿って歩く。笹は全く音を立てなかった。
塀の外には平行して桜の樹が等間隔で植えられている。初夏の今は花の代わりに葉を繁らせ、所々街灯に照らされて淡く透けていた。
左手にある公園を一瞥し、塀にそって右に曲がる。

この少し先に無人のアパートがある。昼でも夜でも固く扉を閉ざし生活感はなく、しかし廃墟によくある殺伐閑とはしていない。しかし首筋が少しだけ緊張するような、ひんやりとした存在がそこにはある。

アパートをやり過ごした後T字路を左に曲がる。ここからは線路沿いになり、一方通行であることから車通りもさほどない。

最初は軽くステップを踏むように静かに走り出した。左手の民家が人の気配を捉え明かりを付けて一瞬横顔を闇に浮かび上がらせた。
遠くで踏切の赤いランプが鼓動に重なる。

踏切を渡り、信号のある交差点を直進すると、そこは細い道で両側にある林が夜の闇を一層濃くする。左手はお寺、右手は誰も使わない散策道らしいものがある。多分お寺の所有物だろう。時折人の手が入った小綺麗さがある。しかし実際に私は他の人に会った事はないし、見たこともなかった。
この場所は私のお気に入りだ。明るく陽気な場所ではないが、昼でも心地好いヒンヤリとした空気、夜には木々の間から漏れる月明かり、そして今は何もないが、夏の終りには一面に彼岸花が咲き、緋と白が静に佇む。時期が来るまで茎さえ見せず、あの独特の華、終ればまた茎さえ残さず消えてしまう。三倍体で一種類しかいない純血種。その不思議な生態や、土葬の時代に獣や蟲が荒らさないようにと毒を持つ花が植えられ―それゆえ死人花とも呼ばれ―禁忌に触れているような倒錯的な感じが胸を締め付ける。

ふと腰から首筋にかけて、違和感が襲った。脊髄の中をムカデが移動するような痺れを伴って。

――何かを踏む!

そう感じた時には次に繰り出される足の先に何か白いものが横たわっていた。体を不自然に曲げ弾かれるようにかわす。

――猫?白い…

道の端に確かに猫が横たわっていた。寝ている様に見えた。
私は夜ほとんど目が見えない。普段の明かりの下でさえあまりよく見えていない。大きな建物はともかく案内板、向こうからやってくる人の顔―表情―等は何かがある程度の認識でしかない。
そのため夜外出する時は見えなくても大丈夫な道を選ぶ。何が何処にあるのか良く知っている場所。

走り過ぎながら、乱れた呼吸を整えた。

――危ない、もう少しで踏んづけてしまうところだった

綺麗な白色の毛、門の前で横たわっていたからあの家の猫かもしれない。ペースを戻しながらそんな事を考え、いつも折り返す場所で元来た道を戻るように走る。

空は遠くの町の明かりを受けて晴れている時よりも明るい。雲が光を蓄積し、それが雷になるのだとしたら、世界は円環の様にどこまでも続き、光は天と地を往き来している。
走るといつもこんな感じで、とりとめもない事が去来する。良い考えも悪い予感も過ぎてしまえば後には何も残らない。

――さっき猫が寝ていた道だ…

直前になってふと思い出した。道を戻っているため反対側だが、確かあのあたりに……

――いる、ような気がする……

私はハッキリと猫がいることを確認出来なかった。何か白いものがあるような、しかしあってはいけないようなそんな気がしていた。

走り去る私の頭の中には、ヒガンバナが静かに咲いていた。

Comment
この記事へのコメント
写真ではむずかしいけれど
絵になりそう

闇、竹林の緑、白い命の気配
彼岸花の緋(白よりここでは緋があっている)

じっとして動かない空気

内面化されたマヒトさんの鼓動

いい感じですね
2008/ 06/ 04 (水) 22: 49: 31 | URL | らら # 1wIl0x2Y[ 編集 ]
あまり大したモノではありません
その時に起こったことを、そのまま文章にしたらこんな感じになります。

些末な事は省いているので現実に起こった通りではないのですが、大体こんな感じです。

絵でもいいですが実際にあるので写真にも撮れますよ(ヒガンバナが咲く場所には竹林もあるため)。

星や蛍を撮りたいなぁ。X2のダブルズームレンズキットがかなり良いと聞いたので。
2008/ 06/ 05 (木) 06: 04: 58 | URL | MK # EGTCt1XI[ 編集 ]
ダブルズームレンズキット
17-55mmと55-200mmでしたっけ?
この二つのレンズ付きで
EOSKissDXを前に買いました
13万でした。
今かなり安いですね

200mmがほしかったのは月を撮りたかったから。
2008/ 06/ 05 (木) 21: 35: 46 | URL | らら # 1wIl0x2Y[ 編集 ]
よく見てはないけど
望遠側があるとよく撮れるし、天体はフィルムよりもデジタルの方が扱いやすい……のかな。

一応、9月ころまでは検討中。
2008/ 06/ 06 (金) 00: 53: 44 | URL | MK # EGTCt1XI[ 編集 ]


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