本を読むそばから僕らは物語を失う
Nはそう言って行ってしまったけれど僕には想像がつかなかった。半透明の鎖に繋がれ、見た目も重さも半分以下になってしまったソレからはもう何も聞く事は出来ない。

繰返し同じ本を読む度に本は不意に新しい物語を見せる。マトリョーシカのように開けても開けても同じようでいて少しずつ違っている。夏が来るたびに何か特別な事が起こるような淡い期待が海のように心に打ち寄せるのにも似ている。しかし夏が終わる頃には打ち寄せられた残骸だけを確認し、いつもと変わらない秋を向かえる。

本は変わっていない。ただ僕たちの心が変わっていくんだ。

紅葉がその恋を静かに終え厚い絨毯を作る頃、Nは何処かへ消えてしまった。夏の余韻を残した絵はがき、『物語を失う度に僕らは本を読む』とバランスの欠けた字体がそこにある。
Nの部屋は存在だけがポッカリと空いていてその他は依然としている。

2007.12.14 Fri l 雑感 l COM(0) TB(0) l top ▲

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